通勤手当は、電車やバスの定期代にあてるお金なので、給料とは別のものと考えている方もいるのではないでしょうか。通勤手当は、電車やバスの通勤なら所得税では月15万円まで非課税ですが、社会保険料を決める標準報酬月額の計算には含まれます。
厚生労働省の記者クラブで社会保障の制度を取材してきた経験からお伝えすると、社会保険料の話は「引かれる額」だけで語られがちですが、標準報酬月額は年金や手当の計算にも使われる物差しです。ここでは、通勤手当の額が違うと、保険料と給付の両方がどう変わるのかを見ていきます。
通勤手当以外の報酬が同じで、通勤手当が月5000円、2万円、3万5000円の場合について、令和8年度の保険料率で、標準報酬月額と本人が負担する社会保険料、老齢厚生年金と傷病手当金への反映を試算しました。
※通勤手当以外の報酬の月34万600円は、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の一般労働者の所定内給与額(残業代などを除く6月分の給与)の平均です。通勤手当の3つの額は、比べるために仮に置いた金額です。
通勤手当は社会保険料の計算に入る?所得税は月15万円まで非課税でも、標準報酬月額を決める報酬には含まれる
国税庁「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」によると、電車やバスだけで通勤する人の通勤手当は、最も経済的かつ合理的な経路と方法で通勤した場合の定期券などの金額が、1か月あたり15万円まで非課税です。
一方、日本年金機構「標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。」によると、給与規定に定めのある通勤手当は、労務の対償として受けるものと認められ、標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。
- 【所得税】通勤手当は月15万円まで非課税で、給与所得の計算に入らない
- 【健康保険料・厚生年金保険料】通勤手当は報酬に含まれ、標準報酬月額を決める計算に入る
- 【数か月分をまとめて支給される場合】6か月分の定期代なら、月数で割った1か月分を各月の報酬月額に含める
- 【雇用保険料】通勤手当は非課税分も含めて賃金に算入し、実際の賃金に保険料率をかける
つまり、所得税の源泉徴収票には出てこない通勤手当も、社会保険料の計算では毎月の報酬の一部として扱われます。数か月分の扱いは、日本年金機構「複数月単位で従業員に支給した通勤手当は、報酬月額に含めますか。」、雇用保険料の扱いは福井労働局「賃金総額算入早見表」によります。
通勤手当が月3万5000円と5000円で社会保険料はいくら違う?所定内給与が平均並みの40〜64歳なら月約6150円、年約7.4万円
通勤手当以外の報酬を月34万600円として、通勤手当を足した報酬月額を、協会けんぽ(東京都)の令和8年3月分からの保険料額表に当てはめました。本人が負担する社会保険料の月額は次のとおりです。
- 【通勤手当5000円】報酬月額34万5600円、標準報酬月額34万円、社会保険料は月約5万2728円(40歳未満は約4万9974円)
- 【通勤手当2万円】報酬月額36万600円、標準報酬月額36万円、社会保険料は月約5万5803円(40歳未満は約5万2887円)
- 【通勤手当3万5000円】報酬月額37万5600円、標準報酬月額38万円、社会保険料は月約5万8878円(40歳未満は約5万5800円)
通勤手当が月3万5000円と5000円の差は、40〜64歳で月約6150円、年約7万3800円です。40歳未満は介護保険料がかからないため、月約5826円、年約6万9912円です。差の内訳は次のとおりです。
- 【厚生年金保険料】月約3660円(年約4万3920円)
- 【健康保険料】月約1970円
- 【介護保険料(40〜64歳)】月約324円
- 【雇用保険料】月約150円
- 【子ども・子育て支援金】月約46円
※試算の前提:協会けんぽ東京支部の令和8年度の料率(健康保険9.85%、介護保険1.62%、子ども・子育て支援金0.23%)と厚生年金保険料率18.3%を標準報酬月額にかけ、本人負担の2分の1で計算しました。雇用保険料は令和8年度の一般の事業の労働者負担5/1000を報酬月額にかけています。
※残業代はなく、毎月同じ額が支払われるものとしました。賞与は標準賞与額として別に計算されるため含めていません。健康保険料率は都道府県や加入する健康保険組合で異なります。
例)通勤手当以外の報酬が月34万600円・40〜64歳の場合 通勤手当の額別の標準報酬月額と本人負担の社会保険料(令和8年度・協会けんぽ東京支部)
標準報酬月額の差は通勤手当の差と同じ?3万円の差でも、等級の位置によって2万円から5万円まで変わる
標準報酬月額は、報酬月額をいくつかの幅に区切った等級の金額です。協会けんぽの保険料額表では、報酬月額29万円以上31万円未満なら30万円、37万円以上39万5000円未満なら38万円というように、30万円前後では2万円刻みで等級が分かれています。
そのため、通勤手当の差が同じ3万円でも、標準報酬月額の差は、元の報酬が等級の幅のどこにあるかで変わります。通勤手当以外の報酬が月30万円から40万円の範囲で、1000円刻みの101通りを計算すると、次のとおりでした。
- 【標準報酬月額の差が2万円】35通り(約34.7%)
- 【差が3万円】36通り(約35.6%)
- 【差が4万円】25通り(約24.8%)
- 【差が5万円】5通り(約5.0%)
月34万600円の例では、通勤手当の差3万円に対して標準報酬月額の差は4万円で、通勤手当の差より大きくなりました。反対に、等級の幅の下の方に報酬がある人では、差が2万円にとどまることもあります。
※試算の前提:通勤手当以外の報酬(30万円から40万円まで1000円刻み)に、通勤手当5000円と3万5000円をそれぞれ足して、協会けんぽ(東京都)の保険料額表の等級に当てはめた差を数えました。
社会保険料が増えると給付は?標準報酬月額が4万円上がると、老齢厚生年金は加入1年ごとに年約2630円、傷病手当金は日額約894円増える
標準報酬月額は、保険料だけでなく給付の計算にも使われます。日本年金機構「報酬比例部分」によると、平成15年4月以降の加入期間の老齢厚生年金(報酬比例部分)は、平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数で計算します。
- 【老齢厚生年金】標準報酬月額が4万円高い期間が1年あると、年金額は年約2630円増える(10年なら年約2万6300円)
- 【傷病手当金】標準報酬月額34万円なら日額7553円、38万円なら8447円で、差は日額約894円(30日分で約2万6820円)
傷病手当金は、全国健康保険協会「傷病手当金」によると、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割り(10円未満四捨五入)、3分の2をかけて(1円未満四捨五入)計算します。出産手当金も同じ計算式です。
※試算の前提:老齢厚生年金は、標準報酬月額の差4万円がそのまま平均標準報酬額の差になるものとし、再評価率は考慮していません。傷病手当金は、12か月の標準報酬月額がすべて同じ場合です。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。保険料率は協会けんぽ東京支部の令和8年度の料率で、加入する健康保険や都道府県によって異なります。実際の標準報酬月額や保険料は、勤務先や加入する健康保険、日本年金機構でご確認ください。
元厚労省担当の専門紙の新聞記者。公的社会保障(年金・医療・介護)やNISA・iDeCoを横断分析。難解な一次データを生活者視点に翻訳し、知っておきたい家計防衛の知見と、安全で実用的な情報を提供。