企業型確定拠出年金の「自動移換」の通知が届いたまま、手続きをしていない人は少なくありません。自動移換された企業型確定拠出年金の資産は運用されず、毎月の手数料が引かれていきます。
ここでは、国民年金基金連合会が公表している自動移換の手数料と、自動移換されている人の平均的な資産額をもとに、放っておいた場合と移して運用した場合の差を確かめます。
あわせて、受け取りを始められる年齢への影響と、いまからできる手続きも整理します。
※平均資産額の約43.2万円は、国民年金基金連合会「DC懇談会 第2回ヒアリング資料」(2026年6月)の自動移換者の管理資産残高(2025年3月末、3361億6145万円)を、資産がある自動移換者の人数(77万8086人)で割ったものです。
企業型確定拠出年金の自動移換とは?退職から6か月以内に移さないと、運用されないまま国民年金基金連合会に移される
iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)によると、企業型確定拠出年金の加入者の資格を失ってから6か月以内に、資産を移す手続きや脱退一時金の請求をしなかった場合、資産は国民年金基金連合会に自動移換されます。
自動移換された資産は運用されず、管理手数料がかかります。転職先に企業型確定拠出年金がない、退職して自営業や専業主婦(主夫)になった、といった場合に起こりやすい手続きもれです。
- 【自動移換されている人】約138万人(2025年3月末、資産額0円の人を含む)
- 【うち資産がある人】約78万人(資産の合計 約3362億円)
- 【1年間に新しく自動移換された人】約15.6万人(資産額 約696億円)
国民年金基金連合会は同じ資料で、これまでの対策でも「自動移換者の増大には歯止めがかかっていない」としています。
企業型確定拠出年金の自動移換の手数料はいくら?移されるときに4348円、そのあとは月98円で1年に約1200円
自動移換の手数料は、特定運営管理機関と国民年金基金連合会の2つに分かれています。管理手数料は、自動移換された月の4か月後からかかり、毎年3月末にまとめて計算して4月に資産から引かれます。
- 【自動移換されるとき】4348円(特定運営管理機関3300円、国民年金基金連合会1048円)
- 【自動移換されている間】月98円(特定運営管理機関58円、国民年金基金連合会40円)
- 【1年間の管理手数料】約1200円(月98円×12か月=1176円)
運用されないため、資産は増えず、毎年約1200円ずつ減っていきます。平均の約43.2万円なら、1年で資産の約0.3%にあたります。なお、資産が0円の人には手数料の負担はありません。
※試算の前提:1年間の管理手数料は月98円の12か月分。自動移換された年は4か月目からの月数分になります。
企業型確定拠出年金の自動移換のままと、iDeCoに移して運用した場合の差は?5年で約4.3万円、20年なら約21.1万円(年2.02%の場合)
自動移換された約43.2万円を、そのままにした場合と、すぐにiDeCoへ移して運用した場合とで比べます。運用の利回りは、企業年金連合会の調査で企業型確定拠出年金の「想定利回り」の平均だった年2.02%を仮に置きました。
- 【5年後・自動移換のまま】約42.6万円
- 【5年後・iDeCoで年2.02%運用】約47.0万円(差 約4.3万円)
- 【5年後・iDeCoに移したが運用の商品を選ばない】約42.5万円
- 【20年後・自動移換のまま】約40.9万円
- 【20年後・iDeCoに移したが運用の商品を選ばない】約41.3万円
- 【20年後・iDeCoで年2.02%運用】約62.0万円(差 約21.1万円)
iDeCoに移しても、運用の商品を選ばなければ資産は現金のまま置かれ、5年後は自動移換のままとほぼ同じです。差が出るのは、移したうえで運用の商品を選んだ場合です。
※試算の前提:自動移換のままは、平均資産額の約43.2万円から管理手数料月98円を4か月目から差し引いて計算(年1回まとめて引かれる時期の違いは考えていません)。
※iDeCoは掛金を出さず運用の指図だけをする「運用指図者」とし、自動移換からiDeCoへ移すときの手数料3379円(特定運営管理機関550円、国民年金基金連合会2829円)と事務委託先金融機関の手数料月66円を差し引いて計算。運営管理機関の手数料は0円の場合です(実際は0円から月400円台まで)。
※年2.02%は企業年金連合会「2024(令和6)年度 企業型確定拠出年金実態調査結果(概要版)」の想定利回りの平均で、将来の運用成績を示すものではありません。
例)資産約43.2万円の場合 企業型確定拠出年金を自動移換のままにしたときと、iDeCoに移したときの資産額
企業型確定拠出年金の自動移換は受け取りの年齢にも影響する?自動移換の期間は通算加入者等期間に数えられず、60歳から受け取れないことも
確定拠出年金を60歳から受け取るには、60歳になるまでの「通算加入者等期間」が10年以上必要です。iDeCo公式サイトの用語集では、自動移換されている期間は通算加入者等期間に算入されないとしています。
- 【10年以上】60歳から受け取れる
- 【8年以上10年未満】61歳から
- 【6年以上8年未満】62歳から
- 【4年以上6年未満】63歳から
- 【2年以上4年未満】64歳から
仮に企業型確定拠出年金に9年加入して退職し、そのまま自動移換になっていると、60歳からは受け取れず、受け取り始めは61歳からになります。一方、iDeCoに移して運用指図者になった期間は、通算加入者等期間に数えられます。
筆者が企業型確定拠出年金の研修を担当していたころ、自動移換の話をすると、「自動移換されている期間は、受け取りに必要な期間に含まれるのですか」と質問を受けることが多くありました。60歳から受け取れるかどうかに関わるので、やはり気になるのでしょうね。
そのため、研修では「自動移換されている期間は、受け取りに必要な通算加入者等期間に数えられません。期間が足りなければ、受け取りを始められる年齢が61歳以降に遅れることもあります」と説明していました。
自動移換は、手数料で資産が少しずつ減るだけでなく、将来いつ受け取れるかにも影響します。移換の手続きは、いまの資産を守るためだけでなく、受け取りの予定を守るための手続きでもあると考えておきたいところです。
企業型確定拠出年金の自動移換から、いまからできる手続きは?iDeCoか転職先の制度に移し、運用の商品を選ぶ
自動移換された資産は、いまからでも移すことができます。移し先は、iDeCo、転職先の企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、通算企業年金のいずれかです。
- 【iDeCoへ移す】運営管理機関を選んで連絡し、「個人別管理資産移換依頼書」を出す。掛金も出すなら「個人型年金加入申出書」も出す
- 【転職先の企業型確定拠出年金へ移す】勤め先の担当部署に移換の手続きを確かめる
- 【自動移換されているか分からない】特定運営管理機関の問い合わせ窓口で確かめる。国民年金基金連合会からは年1回、お知らせが送られる
iDeCoに移したあとは、運用の商品を自分で選ぶ必要があります。日本証券業協会などが厚生労働省の懇談会に出した資料では、運用指図者として移した資産で運用の指図がされず、そのまま残っている例が増えていると指摘しています。
また、掛金を出す「加入者」になるか、運用だけをする「運用指図者」になるかで、毎月の手数料が変わります。掛金を出す加入者には、国民年金基金連合会の月105円もかかります(2027年1月から月120円)。
【検証】試算から見えること:自動移換の手数料は、資産が少ない人ほど重くなる
自動移換の管理手数料は、資産の額にかかわらず月98円です。そのため、資産が少ない人ほど、手数料が資産に占める割合は大きくなります。
国民年金基金連合会の資料では、資産がある自動移換者のうち、資産が25万円以下の人が6割を超えています。仮に25万円だとすると、1年間の管理手数料約1200円は資産の約0.5%で、平均の約43.2万円(約0.3%)より重くなります。
ただし、少額だからといって、資産を引き出せるとは限りません。脱退一時金を受け取るには、iDeCoに加入できないことなどの条件があり、受け取れる人はかなり限られると連合会自身が説明しています。
手数料の差だけを見ると、iDeCoに移しても毎月66円などがかかり、移すときにも3379円がかかります。移しただけで商品を選ばなければ、比較の試算のとおり、自動移換のままとあまり変わりません。
一方で、移したうえで運用の商品を選べば、運用の結果が資産に反映され、通算加入者等期間にも数えられます。自動移換の通知を見つけたら、まず移し先を決め、移したあとに商品を選ぶところまでを一続きの手続きと考えておくとよさそうです。
まとめ
企業型確定拠出年金の自動移換は、退職から6か月以内に手続きをしないと起こり、資産額0円の人を含めて約138万人が対象になっています。自動移換のままだと運用されず、月98円の管理手数料が引かれ、受け取りに必要な期間にも数えられません。
自動移換された資産は、いまからでもiDeCoや転職先の制度に移せます。手数料は改定されることがあるため、手続きの前に、iDeCo公式サイトや運営管理機関で最新の金額と必要な書類を確かめておくと安心です。
※本記事の試算は一定の前提に基づく概算です。手数料の金額・引かれる時期、運営管理機関の手数料、運用の結果は、加入先や商品によって異なります。実際の資産額や手続きは、国民年金基金連合会(iDeCo公式サイト)や運営管理機関、勤め先の担当部署でご確認ください。
みずほ銀行出身。FP2級保有。確定拠出年金の講師として全国でセミナーに登壇。フィンテック企業広報を経て、現在は株式会社モニクルリサーチにて、官公庁のデータをもとに、年金や資産運用、新NISA、iDeCo等の記事を執筆。