2026年4月1日、離婚後の子の養育に関するルールを見直した改正民法が施行されました。養育費の取り決めがなくても請求できる「法定養育費」が新しくでき、取り決めた養育費には「先取特権」という優先権が付きました。施行から半年がたち、この仕組みで受け取れる額を確かめておきたい時期です。
養育費は、取り決めても途中で減らされたり、払われなくなったりすることがあります。公正証書がなければ、払わない相手に強制的に払わせる方法はないのでしょうか。取り決めをしないまま離婚した場合は、何も請求できないのでしょうか。
この記事では、法務省の資料と法務省令で、法定養育費と先取特権の額と条件を確かめます。厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査の平均月額と並べ、子の数ごとに金額を比べました。
取り決めがなくても養育費は請求できる?法定養育費は子1人月2万円、取り決めがある母子世帯の平均4万468円の約半分
法務省の「養育費に関する法務省令の概要」によると、法定養育費の額は、月2万円に子の数を掛けた額です。子2人なら月4万円、子3人なら月6万円になります。
一方、厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、養育費を受けている、または受けたことがある母子世帯のうち、額が決まっている世帯の平均月額は5万485円です。子の数別に見ると、法定養育費との差がはっきりします。
子1人の法定養育費2万円は、母子世帯の平均月額4万468円の約半分です
- 【子1人】法定養育費2万円、母子世帯の平均月額4万468円、先取特権の上限8万円
- 【子2人】法定養育費4万円、母子世帯の平均月額5万7954円、先取特権の上限16万円
- 【子3人】法定養育費6万円、母子世帯の平均月額8万7300円、先取特権の上限24万円
法定養育費は、子1人では平均月額の約49%、子2人と子3人では約69%に当たります。法務省は、法定養育費は取り決めをするまでの暫定的・補充的なもので、収入などを踏まえた適正な額を取り決めることが重要だとしています。
※試算の前提:母子世帯の平均月額は、全国ひとり親世帯等調査(令和3年11月1日現在)の「子どもの数別養育費(1世帯平均月額)」で、養育費を現在も受けている、または受けたことがある世帯のうち額が決まっている世帯の値です。割合は編集部が計算しました。
法定養育費は誰がいつまで請求できる?2026年4月1日以降に離婚した場合で、取り決めか子が18歳になるまで
法務省のパンフレット「父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました」は、法定養育費を請求できる場面を次のように説明しています。離婚のときから引き続き子の監護を主に行う親が、もう一方の親に請求する仕組みです。
- 【対象】改正法の施行後(2026年4月1日以降)に離婚した場合。2026年3月31日までに離婚した場合は発生しない
- 【いつから】離婚の日から発生し、毎月末にその月の分を支払う
- 【いつまで】父母が養育費を取り決めた日、家庭裁判所の審判が確定した日、子が18歳に達した日のいずれか早い日まで
支払いを求められた側が、支払う能力がないことや、支払うと自分の生活が著しく苦しくなることを証明したときは、全部または一部の支払いを拒めます。法務省は、生活保護を受けている場合を例に挙げています。
法定養育費が支払われないときは、差押えの手続を申し立てることができます。施行前に離婚した人が養育費を求めるには、これまでどおり父母の協議か家庭裁判所の手続で額を取り決めることになります。
公正証書がなくても差押えはできる?取り決めの文書があれば、子1人月8万円まで申し立てられる
改正前は、養育費を取り決めていても、支払われないときに相手の財産を差し押さえるには、公正証書や調停調書、審判書などの「債務名義」が必要でした。
改正後は、養育費に先取特権が付いたため、取り決めの際に父母が作った文書をもとに差押えを申し立てられます。先取特権が付く上限額は、法務省令で月8万円に子の数を掛けた額と決められました。子1人なら月8万円、子2人なら月16万円です。
子1人の母子世帯の平均月額4万468円は、この上限の約半分です。平均的な額の取り決めであれば、毎月の養育費の全額が先取特権の範囲に収まる計算になります。
ただし、2026年3月31日以前に取り決めていた場合は、先取特権が付くのは2026年4月1日以降に生じる養育費に限られます。3月分までの未払い分を差し押さえるには、これまでどおり債務名義が必要です。
母子世帯で養育費を今も受けているのは28.1%、取り決めをしている世帯では57.7%
新しい仕組みは、取り決めがあるかどうか、文書があるかどうかで使える範囲が変わります。全国ひとり親世帯等調査で、母子世帯の取り決めと受給の状況を確かめました。
養育費を取り決めている母子世帯では、現在も受けている割合が57.7%と全体の2倍を超えます
- 【母子世帯全体】現在も養育費を受けている28.1%
- 【養育費の取り決めをしている世帯】現在も養育費を受けている57.7%
母子世帯のうち、養育費の取り決めをしているのは46.7%でした。取り決めをしている世帯のうち、判決や調停、強制執行認諾条項付きの公正証書など裁判所の手続による取り決めは60.0%、その他の文書は16.6%、文書なしは23.1%です。
法務省の説明では、先取特権による差押えは、取り決めの際に父母が作った文書にもとづいて申し立てるとされています。口約束だけで済ませている場合は、取り決めの内容を文書に残しておくことが、新しい仕組みを使う出発点になります。
平均月額4万468円は「額が決まっている世帯」の平均、受け取れていない世帯は含まれない
厚生労働省の記者クラブで社会保障の政策取材をしていた経験からお伝えすると、統計の平均額は、どの世帯を分母にした数字かを先に見ることが欠かせません。
この記事で使った子1人の平均月額4万468円は、養育費を現在も受けている、または受けたことがある母子世帯のうち、額が決まっている世帯の平均です。一度も受けたことがない世帯は、平均の計算に入っていません。
同じ調査で、養育費を受けたことがない母子世帯は56.9%でした。取り決めをしている世帯に限っても19.2%は受けたことがありません。平均月額は、受け取れている世帯の相場を示す数字として読むのが適切です。
なお、調査は令和3年11月1日現在で、改正民法の施行前の状況です。法定養育費や先取特権がどこまで使われているかは、次の調査の結果を待つことになります。
減額を求められたら応じるしかない?一方的には変わらず、協議か家庭裁判所の調停・審判で決める
一度取り決めた養育費の額は、相手が「来月から減らす」と伝えてきただけで変わるものではありません。裁判所の「養育費請求調停」の案内によると、再婚や子の進学など事情が変わったときは、額の変更を求める調停や審判を家庭裁判所に申し立てられます。
調停で話し合いがまとまらないときは審判に移り、裁判官が一切の事情を考慮して判断します。申立てにかかる費用は、子1人につき収入印紙1200円分と、連絡用の郵便切手です。
申立てには、子の戸籍謄本や申立人の収入資料などが必要です。相手から減額を求められた場合も、すぐに応じるかどうかを決める前に、取り決めの文書と、相手の収入の変化を確かめておくと話し合いを進めやすくなります。
養育費は「離婚の時期」と「取り決めの文書」で使える仕組みが変わる
2026年4月1日以降に離婚した場合は、取り決めがなくても子1人月2万円の法定養育費を請求できます。ただし、母子世帯の平均月額4万468円の約半分にとどまるため、あくまで取り決めまでのつなぎの額です。
取り決めの文書があれば、子1人月8万円までは公正証書がなくても差押えを申し立てられます。手元の文書と離婚の時期を確かめ、迷うときは家庭裁判所や養育費・親子交流相談支援センターなどの窓口に相談してみてください。
※本記事の金額は、法務省令と統計にもとづく目安です。実際に請求できる養育費の額や手続は、取り決めの内容や離婚の時期などによって異なります。具体的な手続は、家庭裁判所や弁護士などの専門家にご確認ください。
元厚労省担当の専門紙の新聞記者。公的社会保障(年金・医療・介護)やNISA・iDeCoを横断分析。難解な一次データを生活者視点に翻訳し、知っておきたい家計防衛の知見と、安全で実用的な情報を提供。